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なにせ、今までとは違う、「生き物」を私たちは体験することになるのだ。 富士錦の清 信一専務に、説明をしていただきながら、見学を始めた。 今日の仕事の順番としては、5時半〜7時まで、出麹・盛り(室仕事)、櫂(かい)入れ(蔵仕事)、米張り・蒸し(釜仕事)〜朝食〜8時〜10時まで、蒸し取り(釜仕事)、引き込み・種ふり(室仕事)、仕込み(蔵仕事・三段仕込み〈添・仲・留〉)〜休憩〜10時半から、米洗い、の順である。何をやるのかさっぱり解らないながらも、随分きっちりと時間配分がされている。実は、ひとつのお酒を造るのに、途中、違う工程を行い、それをまた合わせるため、日程が狂うと、お酒ができなくなってしまうのだ。だから、冬場は皆、休みもなく働く。冬場、ここで働いている方々は、岩手から夏場の農作業を終えてやってくる。寒い岩手の雪の中では、農作業ができないために、冬の酒蔵に手伝いに来てくれるのだ。 最初に、室の中で、出麹の作業を見学。室の中は、暑いので、皆裸になって、麹に手を入れる。酒を造る作業は力仕事が多く、大きな動作で手早く動かすため、黙々と働く。汗だけがじんわりと大変さを語りかけてくる。 途中、もろみが、ぼこぼこと気泡を出しながら、動いているのを見る。炊いているわけでもないのに、ぼこぼこと動く様は、まさに「生き物」。この姿を見せられると、サボったり、手を休めたりできないことがつくづくわかる。 次は蔵仕事。温度調節をしながら、大きなタンクの中をかき回す。最初に添(そえ)、次に仲(なか)、最後に留(とめ)、タンクの中は、徐々に増えていく。留のタンクでは、やはり、ぼこぼこともろみが動いている。
外に出ると、もくもくと白い蒸気が立っていた。米張りと蒸しの仕事だ。大きな釜に米を入れて蒸している。ここは、ご飯が炊けた様ないい匂いだ。蒸気がどんどん増えて、あたり一面真っ白になる。 その頃、空も白々と空けてきた。富士錦の田んぼからは、富士山がきれいに見える。何かに邪魔されることなく、大きくそびえ立った霊峰富士がこの富士錦さんから拝めるのである。 清専務の奥様が、皆のご飯を用意してくれている。何人分もの食事を栄養のバランスも考えながら作ってくれる。一仕事終えた後の皆との食事は、格別に美味しい。 朝食が終わると、炊けたお米を運ぶ作業がある。ほっこり炊けたお米を素早く機械で冷やし、布に入れて運んでいく。さっと背負って運ぶ人。飛び散った米を集める人。空いた釜を掃除する人。それぞれが、自分の役割をこなしていく。お酒を造る仕事の中で、表立って注目をされる仕事よりも、一番分量の多いのは、「掃除」だという。使ったものから、掃除や洗濯をしていく。物が大きいだけに干すのも一苦労だ。 炊いた米に麹菌を降り、混ぜる作業がある。また、暑い室の中で、今度は炊けたばかりの粘り気のある重い蒸し米を混ぜる。これはかなり腰に負担がかかる。温度を見ながら手を入れる。この仕事は、勘が物を言う。手で混ぜては、温度を測り、全体が均等になるようにする。ご飯を反すその腕に、ぎゅっと筋肉が盛り上がる。
蔵では仕込みが始まった。ぱらぱらと米が筒を通ってタンクに入る。それを櫂(かい)でかき混ぜる。米が溜まっているところはかなり力がいる。米は少しずつ入ってくるので、その間、櫂でかき混ぜ続ける。温度調節もする。台の上に乗っかり、高く腕を振り上げで混ぜるため、腕が痛くなる。何度も、腕を回してほぐしながら、また腕を振り上げる。 望月バイヤーも挑戦した。思うように櫂が動かず苦笑いをする。それでも、「おいしくなれよ」と願いながら櫂を回した。すぐ力尽きた・・・。 30分の休憩の後、米洗いをする。明日炊く分だ。「誉富士」もあった。初めて使う酒米は、勝手が違う。水に浸す時間も米によって違う。誉富士は、心白(米の中心にある白い部分)が大きいためか、吸水しやすいようだ。時計を見ながら、洗う場所と浸す場所を走り回り、米を洗う。洗った米を釜にセットして、一日の作業が終わる。 しかし、麹は生きている。人の手で、夜通し、温度調節を行う。
清専務の仕事は、これだけではない。お酒を売るのも仕事だ。お店を回ったり、集金したり、冬の酒蔵の仕事は、とにかく長い。それでも、遠くから、富士錦さんのお酒の評判を聞きつけて買いに来てくれるお客様や、近所のファンが、清専務の活力になっている。休みもなく働いているのに、とてもいい笑顔だ。 星が輝いている時間から、また、星が出る時間まで、冬の酒蔵は休まない。
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